アウトプットなんてあるのか

身の回りに絵を描いたり文章を書いたりする人が多いこともあるけど、たまに「今日はインプットの日」みたいな感じでギャラリー巡ったりアート系の本が多い書店を廻るのに付き合うことがある。
自分は写真集や哲学書なんかを買って、ぷらぷらしていたら「写真撮るのだって創作活動なんだからこういうのもいいでしょ?」って言われた。「え、写真って創作活動なんだろうか。」って思いが湧いた。
目の前で起きていることをただ記録していくだけの行為で、いかにマニュアルなカメラを使ったとしても、仕事をするのはカメラでありレンズ。
実は写真を撮っている自分は傍観者のうちの一人だと思うし、全部インプットでアウトプットなんて殆どないと思っている。
撮って撮って撮りまくって、プリントしまくった中の数枚を展示したり、写真集にまとめたりってときには流石に創作活動っぽいなと思うけど、胸を張って写真を創作活動だって思ったことがない。
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最近は特に、スナップであればもっと刹那的にシャッターを切りたいと思っている。構図がどうだの小難しいことを考えないでとりあえず面白いモノ、面白い人がいたら撮っておけと思っている。撮るにはライカも良いけどGRも良い。自分が友情価格1万円で譲ったフィルムGRで撮った写真を大四切でギャラリーに飾った奴が最近いたけど、正直、数十倍の価格のカメラで撮った写真たちと並んでも違和感がなかった。
カメラなんて気に入ってればなんでも良い。そういえばいつか「ライカにストロボつけてポートレート撮るなんて外道だ」と言われたことがあった。「ライカレンズは自然光でこそ至高」らしい。やかましい。
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いろんな概念とかイメージとかを突き放して、もっとソリッドな写真が撮りたいし見たい。

 もっと自由に撮ろう

今更なんだけど、ずっと欲しいなって思っていたGXR A12 GR50mm/F2.5 Macroを買った。
なんとなく毎日家に生けてある花を撮ったりしていた。コロナ禍でマクロレンズが人気を博したというのは分かる気がする。
日常のもっとマクロな何でもないものが何かっぽく写るのは素敵だ。
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部屋の中でしか使っていなかったから、また東北へ行くことになって、この50mmと普通のGR(28mm)を持っていった。
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めちゃくちゃ写るじゃん。これちょっと困るよね笑 レンズがいいんだろうなぁ。


深い理由はないけど、ちょっともうポートレートを撮るのはいいかなって思っていた。
3月は特に人間関係に疲れていたこともあって、モデルさんと日程調整をしてイメージを共有してっていう作業に疲れていた。
そんな中でどうしても撮りたいって感じのタイミングが合って撮れた。
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めちゃくちゃ楽しく撮影できて、モチベーション復活した。yuna@.さんに超絶感謝。


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今年の桜は少し早かったし、途中で出張もあったからあまり楽しむ時間もなかったけど、楽園の桜は今年も綺麗だった。
明日から四国へ出張。東北はGR50とGRで怠けたから、今年も四国へはLeica M2だけ連れて行こうと思ってる。
とにかくシャッターを切るのを楽しもうと思うから。

 閑話休題

まだまだ寒さ絶頂の東北へ1週間ばかし行ってきた。
とにかく寒くて、毎朝お湯を入れたペットボトルで車の窓を解凍していた。
コロナ感染者はあまり出ていないのに、感染対策は都市圏とは比較にならないほど徹底されていた。
みんなコロナを怖がっていたけど、実はコロナより人間が怖いんだなーと思いながらよそ者の自分は酒を飲んでいた。
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地震が起きて、びっくりするほど長い間揺れが続いたその時も、ホテルの部屋で酒を飲んでいた。
揺れが収まると廊下を走る人たちの足音が聞こえてきて、次にクルマのドアを開け閉めする音が聞こえてきた。
みんな逃げるんだ…と思いながら、部屋のテレビを眺めていた。
沿岸部の宿だったから、多分逃げても助からないだろうと思いつつ、車まで向かったものの「これ、飲酒運転になるんじゃね?」と思って駐車場からでれなかった。
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安否確認とか色々きて、津波が来ないことがわかって、部屋に戻ってまた酒を飲み直した。宮城峡はとても良いウイスキーだ。
3時半ごろに余震が来た。生命保険の死亡一時金がいくらだったか、ちゃんと残された相方に支払われるか不安になった。
帰ったらすぐ生命保険のお姉さんに聞いとかないと…と思った。ある意味これは愛だ。


3.11は朝から電車が遅延していて、新幹線通勤をキメてやった。
いつもと違う車窓とGを感じながら、あまりに早く過ぎ去っていく車窓を追いかけて目が疲れた。
在来線に乗り換えたら日差しが好きな感じだった。
黙祷の時間、取引先と電話していた。特別なことはしなかった。
転勤で去っていく後輩と、大層なカレーライスを食べたくらい。
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生命保険のお姉さんに聞いた死亡一時金を相方へ伝えた。
「万が一の時はそれで楽しく暮らして」と。
「バカじゃないの。それもう楽しいとか幸せとかなくなってんじゃん」てキレられた。
これもある意味、愛だ…と思う。知らんけど。

 記憶の扉としての写真

誰のために、何のために写真を撮るのか。
全部自分の為、自分と周りの人たちの為。
もっと撮っておけばよかったとか思いたくないじゃないか。
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いつか来たこの小さな港町へまた来ることになるとは思わなかった。


以前は色んなことに行き詰まった気持ちになって、平日に会社を休んで一人でここへ来た。
写真は一人で撮るものだと、今より強く思っていた。
誰かに理解してほしいとか、見てもらいたいとか、何も考えていなかった。
同じ場所で似たような構図を今回も撮っていることに帰ってきて気がついた。


だけど今回は大きく違うものもあって、仲間の写真も撮っていた。
誰と来たんだっけ。いつだっけ。
そんな楽しい思い出は辛いだけかもしれない未来だってあるかもしれない。未来が幸せすぎたら忘れてしまってもいいと思う。


でも、もう今日は二度と来ないんだから、500分の1秒でもその瞬間を閉じ込めて、そっと持っててもいいじゃないか。
今回は敢えてデジタルで。物体にして残すには少し感傷的すぎる。
偶然、フッと消えてしまう儚さがあっても良いと思った。
たくさんのデータの中からいつか見たときは、どんな記憶になってるんだろう。


Leica M typ262 Voigtlander ULTRON Vintage Line 35mmF2 Aspherical VM

 誰かとどこかに行きたい

2021年が始まったんだけど、何とも締まりのない年末年始で、このままダラダラとコロナ禍と共にいろんな物事が流れていくのかと思うと憂鬱な気持ちだ。
7月になったからって呑気にオリンピックだって機運になるのか心配する声もあるらしいけど、去年大騒ぎしていた緊急事態宣言が出ても今回は昼呑みだ!って盛り上がっている現状を見ると意外といけるんじゃないのって気持ちになってくるから不思議だ。
別にオリンピックなんてどうでもいいんだけど。


そういえば去年の11月に「もうヌードは撮らない」って自分の中で決めていたのに、あっさりと破ってしまった。
たくさんの人を撮りたいと全く思わないし、撮らせてもらって雰囲気っていうかノリが素敵だなって思った方を繰り返し撮らせてもらったり、なんとなく気になった人を巡り合わせで撮らせてもらえればいいなぁって感覚で人物撮影をしていて、今回そういう機会が巡ってきて、それが考え方含めてとても素敵だと思った方だったから、超緊張の中で撮影させてもらった。
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近所のコンビニで働いている外国人の女の子がとにかく態度が悪くて、夜とか外国人同士で母国語でなんか話しているもんだから嫌だなーと思って敬遠してた。
ある日、仕方なく並んでたら、レジでおっさんがその女の子にクレームを入れていて、「あぁこの子はどんな事情で日本に来たのか知らないけど、日本に来る前はもっと希望に溢れてたのかなぁ。こんなところで夜中に怒られてる自分なんて想像してなかっただろうな」と眺めていたら、いろいろ虚しくなってきた。
でも、クレームおじさんはいつかの自分なのかもしれない。「ありがとう」をちゃんとその子に言うようにし始めた。少し態度が柔和になった気がする。


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車でいろんな人と出掛けて話をするのが楽しい。
上司だったり後輩だったり、家族だったり。お互いに車の外を見ながら目を完全に合わさないからこそ本音が聞ける気がして。
「自分の良いところがもう分かんない。もうダメかもしれない」と後輩が嘆いていた。運転してる横顔がマジだった。
「お前のとりあえず作る軽薄な笑顔に救われてるやつだっているかもよ」って言ったら「それ良いところなんですか?」って困った顔で笑っていた。
それそれ。俺はそんな笑顔作れないからなー。無い物ねだりなんだ、みんな。

 2020な写真生活

今年を振り返る記事を毎年書いているけど、今年ほど書くことがない年もないかもしれない。
とにかくいつの間にか過ぎていった。
2月中旬に友人の結婚式のために東京へ行ったのが最後の旅行らしい旅行だったかもしれない。
閉館するリコーの銀座ギャラリーへ行きたかったから銀座へ赴いたが、既にこの頃、アジア系外国人は銀座の街から一掃されていた。この頃はまだマスクは無いなりにあったし、自粛ムードはなかった。
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3月になって少しずつ遠出はダメな雰囲気になってきてロックダウンが世界中で始まった。
大急ぎでB&Hからまとまった数のモノクロフィルムを入手した。

この頃からなんとなく撮影したポートレートの多くが飾られることもプリントされることもなく電子のチリになっていくことへの違和感が芽生え始めたけど、じゃあ自分の撮る写真にチリ以上の価値があるのかがわからなくて、LFI Galleryへの投稿を始めた。
Jungle Gym Girl

4月に入ってから本格的にテレワークが導入された。
3月末くらいから電車での通勤は避けるように言われて営業車なんかで車通勤していたんだけど、ある日iPhoneのヘルスケアアプリを見て歩数が異様に少なくなっていることに驚いた。昼休みにフィルムカメラを持って散歩する日常が始まった。
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4月・5月はポートレートの撮影を一切やめた。
5月末にテスト的に再開したけど、あまりにうまく撮れずに少し絶望した。
6月は7月に予定していた写真展へ向けて準備を急ピッチで進めたけど、そもそも3月までにモデルさん確定して4〜5月で作品撮りという予定が大崩れになったこともあって慌ただしくなった。
この時期はテレワークの機会に有休消化を会社から促されていた時期だったこともあって、積極的に平日休めて助かった笑
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開催時期がまだナーバスな時期っていうのもあって盛況とは言えなかったけどやれて良かったと思う。

夏はスタジオ撮影を入れてポートレートを撮りつつ、2020年から使い始めたノンライツなレンズも使って楽しくスナップを続けていた。
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秋口になると流石にこの生活にも飽き飽きしてきて、精神的に参っていたけど、これじゃダメだなーと謎に3日に1回以上のペースでポートレート撮影をしていた。
多分こんなペースで撮ることはもう無い気がする。
Shimantogawa River
絶妙なタイミングで高知への少し長めの出張があったのは本当に助かった。四万十川と高知の酒に癒された。

11月からは会社へ出かける頻度か上がってきた。純粋に忙しくなった。過去形だけど今も続いている…。
そんなこと言いつつ、ポートレートの撮影も展示もした。よくできたなぁと今でも思う。
10月末ごろからつい最近までポートレートが全部夜撮影なのがちょっと面白い。もともと夜撮影の方が好きだけど、なんでこんなに夜撮できたんだろうって考えたら付き合い含めて酒を飲む機会がなかったからだな。それに尽きる。
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夜撮影メインになってから撮らせていただく機会が増えた気もするのでとてもいい傾向だった。


2020年参加した企画展が5展、企画した展示が1展。割と多くプリントして展示した印象。
来年も自分たちで作る展示を続けたいと思っている。
2021年はちょっと趣向を変えた撮影もしたいなぁと思っているのと、もっとプリント前提の撮影をしたいと思う。
今でも銀塩ポートレートを撮った時は撮らせてもらった人に手焼きプリントを渡すようにしているんだけど、そういう機会をもっと作りたいと思っている。

2021年はライカよりマキナ67の年にしたいと思っている。
フィルムがこれ以上高くならないように祈りつつ、コロナがとっとと終焉することを祈りつつ…。
では、良いお年を。


●記事中掲載のモデルさん
1人目:はざまさん
2人目:涼音さん
3人目:Saeho.さん

 ポーカーフェイスと

電車に乗って音楽を聴いていたら、流れてきた曲から不意に思い出す記憶ってない?
その記憶が「え、なんでこんな大事なことを忘れていたんだろう」ってほどに鮮明に浮かび上がることもある。


今でも若い人に「なんでその大学とその学部選んだの?」なんて聞くと微妙な答えが返ってくることがあるけど、自分はハッキリと哲学を専攻できる大学へ行って学ぼうと決めていた。在学中に死ぬほど難解な本を読めるようになっていたかったし、「どうせ大学で学ぶことは一切社会に出ても役に立たない。やりたいことを思いっきり勉強しよう」と思っていた。
実際にこれは今でも大正解だったと思っている。


中でも特に気に入った講義があって、その担当教授の声も話し方も内容も全てが自分の思い描いた”理想の教授像”で絶対にゼミ分けでこの先生のゼミに入ろうと心に決めた。結局、ずっとその教授のゼミだったんだ。

哲学のゼミなんて何するの?って、発表者が議題になる哲学書の一節を要約した後にディベートなんだけど、まず発表者の要約と議論の展開次第でゼミが決まるわけで、担当教授は顔色ひとつ変えずに「この一文でなぜそんな断言ができるのか」とか「時代背景を読み取れてない」とか断じてくるので、泣いてしまう女の子もいたしフェードアウトしていく人もいたけど、むしろそれが楽しかった。
就活シーズンになってみんな少し浮ついてきてもゼミだけは平常運転だった。「大学は就職予備校じゃない上に、残念ながら私が口利きできる就職先なんて知れてるからね」なんて皮肉げに語る姿も最高だった。

そんなある日、なかなか教授が来ない。
やっと来たかと思ったら、就活制度に対する批判を少しした後で、「実はAくんが電車に飛び込み自殺しました」といつもより顔を紅潮させながら、いつもの声で言ったんだよね。
ゼミ教室とかって指定席みたいになるじゃない。自由席だけど。あぁ、確かにいつも早めに来てるのに今日来てないなぁとか思ったんだよ…。
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すごくショックだったこの日の記憶を完全に失っていた。ある曲を聴いてる間に、あれこの曲いつかカラオケで歌ったっけ…誰と行ったんだったっけ…と溢れ出てくるみたいにその日のことと死んだ彼の名前も顔も声もハッキリと思い出してびっくりした。

閉塞感なんてもんじゃないクソみたいな状況で、「あぁめんどくせえな。もうやってらんねえわ。」って心で悪態つきながら、磨耗していくような日常の、如何しようも無い通勤電車で、思いがけず懐かしい日常とその日常が暗転した瞬間に再会した自分は、ただ騒めく心で日常をこなしていくしかなかった。