写真を巡る日々の散文

展示が終わってから、いろいろなことがあって、「ちょっと撮れないな」って気分になっていた。
純粋にバタバタ忙しい日々があったとかってのもあるんだけど、ちょっとブルーな気分になっていて、いつも持ち歩いているGRも持ち歩かない日もあった。
何かに悩んでいたわけでもなくて、ただ撮れない気分だったんだけど、今まで写真を撮り始めてこんなことは初めてで、自分でもびっくりしてしまった。
8月まで毎月10本前後のモノクロフィルムの消費量が9月はたったの1本だった。
とはいえ、別に写真が嫌いとかってわけでもなかったし、常にかっこいい写真を見ていたい気持ちはずっと持ち続けていたから、アート系の出版社のホームページとか写真集をメインに扱う書店なんかでいろんな写真集を買い漁っていた。
その中で、勝手に運命的だなって思ったのが、今回すごい気に入って買った写真集が、以前何撮れば良いんだろうって気持ちになっていたときに書店で出会って、感動した「写真の中の君は何を見ている」の松尾修さんの写真集だった。基本的に、アーティスト名で音楽や写真は買わないようにしているから家に着くまで気づかなくて、写真をめくっていて既視感にあれ?ってなってもしかして!って。すごくこれは嬉しくて家で一人で感激した。
なんだかいろんな写真集を家で見ながら好きな音楽を聴いていると元気が出てきて、写真撮ろう!って気持ちになった。
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あとなんか、SNSとか展示とか、そういう第三者に提示せずに自分のお守りみたいな、もっともっと身近なものをもっと撮っておきたいなって気持ちになった。
いつか見返して、ホロっときてしまうような写真。記録と記憶の両方に刺さるような。
いずれにしても、なんかモヤモヤして撮らなかった期間に、いろんな写真を見てすごく楽しくて、かっこいい写真や綺麗な写真や恐ろしい写真に出会えて本当に良かった。


 Spatial Photo

写真展をした。
今年はいつもよりも並び方とか、何を見せたいかとか色んなことを考えた。いつもは暗室でキャビネに焼いたものから良いカットを選んで、試行錯誤しながら焼いていくんだけど、今回は先にイメージを作ろうってことで、トリミングとか色んなことをする前提でイメージを考えようとした。
頭の中でいくら考えても、あんまりぴんと来るイメージが作れなくて、これはダメだなって思って、一度ほぼ全コマキャビネにプリントして、それをスキャンしてLightroom上であれこれやってみて、コンビニプリントで印刷してハサミで切ったりしてギャラリーに並べたイメージとかを作り込んだ。

実は今回の写真展に備えてデジタルカメラで撮ったものをもとにフォトブックを作っていて、ちょうど並べるイメージができてプリント作業を始めた頃に届いた。見返したら数週間前にオーダーしたフォトブックも、似たような構成になっていた。
フォトブックと展示は全く別のもので良いって考えていたし、デジタルとフィルム別だと思っていたけど、結果として同じイメージを覗いていたのが不思議な気持ちだった。
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展示するにあたって、これ、誰に見て欲しいんだろうって考えて、もちろん多くの人に見てもらえればそれがベストなんだけど、今回はヌード作品を並べたこともあって、とにかく写ってくれたモデルさん、普段撮らせてもらっているモデルさん含めて自分の写真活動をリアルに知っている人たちに特に見て欲しいなって思っていた。
わかりにくいステイトメントを置いたけど、とにかく1月に撮らせてもらった写真を含めて半年近く同じフィルムの中で試行錯誤して展示するって、とってもスペシャルなことだと思っていて、まずそのテーマを与えてくれた撮影させてくれて、自分に気づきを与えてくれたモデルさんへ、そしてもちろん来てくれた人たちへ、ありがとうっていう感謝が大きかった。

今回の展示、とても嬉しいことがたくさんあったけど、特に嬉しかったのが2年ぶりにあった旧友から「やめようと思ったらいつでもやめるタイミングあっただろうに続けることがまず凄いし、とうとうやっぱり裸婦撮ったかって思う」って言われたことかな。
昔の自分しか知らない人に、そう言われたのが、なんとなく「自分らしさ」なんて自分では分からないけど、らしさが伝わる展示だったのかな?って思って嬉しかった。
終わったばかりなのに「来年はどうするの?」って聞かれたりして、来年も形は違ってきても同じタイトルでやろうと思っている。タイトル変えないのは、なんか自由っぽくて好きだから。


そうそう、展示のプリント期間、西宮でやっていた石内都展に何度か行って勝手に励ましてもらっていた。
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「写真のゆくえ」がどこかわからないけど、これから先もずっと物質として残る写真=プリントはあり続けると信じる気持ちを強く持つことができてとっても励まされた。石内都は自分のスーパースターなので、素晴らしい会期でやっていただいて大感謝だった。


嗚呼、人の写真を撮りたい。人を撮りたい。

 俺の愛車と他人のために踏むブレーキ

乗っている車に愛着はない。たまに蜘蛛の巣が張っているし、野良猫の足跡がボンネットについているし、たまに野良猫がボンネットで寝ている。
むしろその野良猫への愛着のほうがあるから、「お、今日も気持ち良さそうやな」と一瞥して家に入るレベル。
洗車だってしない。半年に一度のディーラー点検の時に洗車機でやってくれる。
ガソリンスタンドにだって行かない。年間走行距離が3000kmほどなのに航続距離が900km前後だから。
そもそも別の車を買おうとして、一応相方をディーラーに連れて行って買う予定だった車に乗せたら、「絶対嫌だ!」とゴネ始めた挙句に、MINIかSMARTが良いって言ってたのに…とか、SUBARUにも行きたいとか言い出して、今日契約だ!くらいのディーラー営業マンと自分は劇焦り。
そこから地獄の全ラインナップ試乗…。今の車を相方はとにかく気に入り、試乗車と同じ色、同じグレードを買うことになった。なんなら試乗車にのって帰りたいとすら言っていた。
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サービスメンテナンスでディーラー営業マンから乗り換え打診含めて1グレード上の車種を代車にあてがわれた。
乗った瞬間にあれ、これじゃないな感が自分の中で結構あって、慣れる慣れないの話じゃなくて、あーこれ違うわ…と思いながら運転していた。
いつも乗っている営業車も違うなーって思いながら運転してるけど、それよりも違った。これは感覚の話。

いつもと違うと心の余裕が生まれない訳で、いつもなら絶対に譲っている場面でもブレーキのタイミングが悪くて譲り損ねたりした。

代車から自分の車でディーラーから帰る途中、いつもの運転をしていたら、3回も他人から感謝された。
ただちょっと道を譲ったり、横断歩道に歩行者がいたから停車して促したり、自転車を先に渡らせただけなのに。
感謝されると嬉しい。ちょっとハッピー。しかも大したことしてないのに。ただブレーキを少し踏んだだけ。
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心の余裕がないと思いやりなんて生まれないんだなって思った。
最近、他人のためにしたことで逆に怒られたり、サイコ野郎みたいな人間と時間をともにしてしまってモヤモヤしていたけど、ちょっと気が楽になった。
音楽もかけずただロードノイズとエンジン音に揺られるドライブだったけど、それが良かった。

 全てのジャンルで入門編はあり得ない

ヨルタモリという番組でタモリ宮沢りえが「入門編としてあまりジャズ聴いたことない人たちが聴くにはどういうのがいいんですかね?」という問いかける。その答えが「全てのジャンルで入門編はあり得ない」
そして続ける「できれば若いうちに経済的に許すことができるのであれば、最高のモノを知っておいたほうがいい。頂点を極めれば裾野が広がる。頂点を知ることでいろんなものが良くなる。いろんなものを許すことができる」と。
いつもお世話になっているカメラ店でも、かつてお世話になっていた自転車店でも全く同じことを言われた。とにかく若いうちに若い感性で最高のものを自分のものにして体験して欲しいと。
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イカを買った後輩が純正レンズが買えないからフォクトレンダーのレンズを買おうとしていると聞いた。余計なお節介で、エルマーを友情価格で譲った。性能なら絶対にフォクトレンダーが良いと思うけど、せっかくなら純正を使って欲しかった。そしてなんだかんだでエルマーは最高のレンズのひとつで、ひとつの答えかもしれない深いレンズだと思うから。
所有していた間、旅レンズとしていろんなところを一緒に旅した愛らしいレンズ。飽きられたらまた戻ってこい。
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写真に写っているものは全て過去のもので、それも自分が意図して残した瞬間だから居心地が良い。
Lightroomを遡っていくと自分のストーリーがそこにあるようだ。
でも、やっぱりブルーライトの向こう側からドットで届けられる情報よりもプリントで見たいなと思う。
プリント済みのキャビネを保管している箱をたまに開いて、少し気取った酒を飲みながら、写真を眺めているのが実に健康的だと思う今日この頃。

 アウトプットなんてあるのか

身の回りに絵を描いたり文章を書いたりする人が多いこともあるけど、たまに「今日はインプットの日」みたいな感じでギャラリー巡ったりアート系の本が多い書店を廻るのに付き合うことがある。
自分は写真集や哲学書なんかを買って、ぷらぷらしていたら「写真撮るのだって創作活動なんだからこういうのもいいでしょ?」って言われた。「え、写真って創作活動なんだろうか。」って思いが湧いた。
目の前で起きていることをただ記録していくだけの行為で、いかにマニュアルなカメラを使ったとしても、仕事をするのはカメラでありレンズ。
実は写真を撮っている自分は傍観者のうちの一人だと思うし、全部インプットでアウトプットなんて殆どないと思っている。
撮って撮って撮りまくって、プリントしまくった中の数枚を展示したり、写真集にまとめたりってときには流石に創作活動っぽいなと思うけど、胸を張って写真を創作活動だって思ったことがない。
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最近は特に、スナップであればもっと刹那的にシャッターを切りたいと思っている。構図がどうだの小難しいことを考えないでとりあえず面白いモノ、面白い人がいたら撮っておけと思っている。撮るにはライカも良いけどGRも良い。自分が友情価格1万円で譲ったフィルムGRで撮った写真を大四切でギャラリーに飾った奴が最近いたけど、正直、数十倍の価格のカメラで撮った写真たちと並んでも違和感がなかった。
カメラなんて気に入ってればなんでも良い。そういえばいつか「ライカにストロボつけてポートレート撮るなんて外道だ」と言われたことがあった。「ライカレンズは自然光でこそ至高」らしい。やかましい。
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いろんな概念とかイメージとかを突き放して、もっとソリッドな写真が撮りたいし見たい。

 もっと自由に撮ろう

今更なんだけど、ずっと欲しいなって思っていたGXR A12 GR50mm/F2.5 Macroを買った。
なんとなく毎日家に生けてある花を撮ったりしていた。コロナ禍でマクロレンズが人気を博したというのは分かる気がする。
日常のもっとマクロな何でもないものが何かっぽく写るのは素敵だ。
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部屋の中でしか使っていなかったから、また東北へ行くことになって、この50mmと普通のGR(28mm)を持っていった。
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めちゃくちゃ写るじゃん。これちょっと困るよね笑 レンズがいいんだろうなぁ。


深い理由はないけど、ちょっともうポートレートを撮るのはいいかなって思っていた。
3月は特に人間関係に疲れていたこともあって、モデルさんと日程調整をしてイメージを共有してっていう作業に疲れていた。
そんな中でどうしても撮りたいって感じのタイミングが合って撮れた。
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めちゃくちゃ楽しく撮影できて、モチベーション復活した。yuna@.さんに超絶感謝。


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今年の桜は少し早かったし、途中で出張もあったからあまり楽しむ時間もなかったけど、楽園の桜は今年も綺麗だった。
明日から四国へ出張。東北はGR50とGRで怠けたから、今年も四国へはLeica M2だけ連れて行こうと思ってる。
とにかくシャッターを切るのを楽しもうと思うから。

 閑話休題

まだまだ寒さ絶頂の東北へ1週間ばかし行ってきた。
とにかく寒くて、毎朝お湯を入れたペットボトルで車の窓を解凍していた。
コロナ感染者はあまり出ていないのに、感染対策は都市圏とは比較にならないほど徹底されていた。
みんなコロナを怖がっていたけど、実はコロナより人間が怖いんだなーと思いながらよそ者の自分は酒を飲んでいた。
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地震が起きて、びっくりするほど長い間揺れが続いたその時も、ホテルの部屋で酒を飲んでいた。
揺れが収まると廊下を走る人たちの足音が聞こえてきて、次にクルマのドアを開け閉めする音が聞こえてきた。
みんな逃げるんだ…と思いながら、部屋のテレビを眺めていた。
沿岸部の宿だったから、多分逃げても助からないだろうと思いつつ、車まで向かったものの「これ、飲酒運転になるんじゃね?」と思って駐車場からでれなかった。
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安否確認とか色々きて、津波が来ないことがわかって、部屋に戻ってまた酒を飲み直した。宮城峡はとても良いウイスキーだ。
3時半ごろに余震が来た。生命保険の死亡一時金がいくらだったか、ちゃんと残された相方に支払われるか不安になった。
帰ったらすぐ生命保険のお姉さんに聞いとかないと…と思った。ある意味これは愛だ。


3.11は朝から電車が遅延していて、新幹線通勤をキメてやった。
いつもと違う車窓とGを感じながら、あまりに早く過ぎ去っていく車窓を追いかけて目が疲れた。
在来線に乗り換えたら日差しが好きな感じだった。
黙祷の時間、取引先と電話していた。特別なことはしなかった。
転勤で去っていく後輩と、大層なカレーライスを食べたくらい。
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生命保険のお姉さんに聞いた死亡一時金を相方へ伝えた。
「万が一の時はそれで楽しく暮らして」と。
「バカじゃないの。それもう楽しいとか幸せとかなくなってんじゃん」てキレられた。
これもある意味、愛だ…と思う。知らんけど。